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野辺山電波ヘリオグラフ国際運用とコロナ磁場計測の成功

2016-03-29

 名古屋大学宇宙地球環境研究所の増田 智准教授を中心として設立された国際コンソーシアムは、2015年4月1日以降、自然科学研究機構国立天文台から野辺山電波ヘリオグラフの運用を引き継ぎ、太陽全面の電波観測を継続して行い、世界中の研究者にデータを提供しています。
 同研究所の塩田 大幸(しおた だいこう)特任助教、柴崎 清登(しばさき きよと)客員教授、茨城大学大学院理工学研究科の宮脇 駿(みやわき しゅん)博士前期課程2年、同理学部の野澤 恵(のざわ さとし)准教授、情報通信研究機構の岩井 一正(いわい かずまさ)特別研究員らの研究グループは、この野辺山電波ヘリオグラフの電波観測と人工衛星による極端紫外線観測を組み合わせる新たな手法を用いて、太陽コロナ磁場の測定に成功し、これまでモデルにより予測されていた磁場よりも数倍以上強い磁場が太陽コロナ中に存在することを明らかにしました。

1)野辺山電波ヘリオグラフ及び国際コンソーシアム

 国立天文台野辺山電波へリオグラフ(図1)は、1992年に長野県南佐久郡南牧村の国立天文台野辺山太陽電波観測所に設置され、17GHz帯での太陽全面電波撮像観測を開始しました。1995年には、34 GHz帯での撮像観測を追加し、現在まで観測を続けています。野辺山電波ヘリオグラフは、84台のアンテナを組み合わせた電波干渉計であり、時間分解能0.1秒、空間分解能約10秒角の能力を有しています。観測開始から20年以上経った現在でも、この波長帯における太陽観測専用の電波望遠鏡としては、世界最高の性能を誇っています。国立天文台は、2015年3月末日をもって、野辺山電波ヘリオグラフの運用終了を決定していましたが、近年の太陽周期活動の特異性や長期電波観測の重要性、かつ、世界的にこの波長域で代用できる観測装置が無いという状況において、国内外の研究者から野辺山電波へリオグラフの運用継続を望む声が上がってきていました。
 これらの声を受けて、名古屋大学宇宙地球環境研究所の増田 智准教授を中心として、International Consortium for the Continued Operation of the Nobeyama Radioheliograph (ICCON)という国際コンソーシアムを設立し、国立天文台と名古屋大学の間で共同研究契約を締結し、運用に関わる経費を国際コンソーシアムが負担することにより、この装置の運用継続を実現しました。2015年4月1日以降は、この国際コンソーシアムによって、野辺山電波ヘリオグラフは運用されており、日々、太陽の電波画像を世界中の研究者に提供しています。
 現在、国際コンソーシアムには、NASA Goddard Space Flight Center (米国)、National Astronomical Observatories of China (中国)、Korean Astronomy and Space Science Institute (韓国)、情報通信研究機構、名古屋大学宇宙地球環境研究所の各研究機関の研究者が参加しています。また、日々の装置運用には、それ以外の国(英国、ロシアなど)の研究者も加わっており、まさに国際的なプロジェクトになっています。
国際コンソーシアムのホームページ(英語のみ):
http://hinode.stelab.nagoya-u.ac.jp/ICCON/

野辺山電波ヘリオグラフ図1 野辺山電波ヘリオグラフ (写真: 国立天文台提供)

2)電波観測に基づく太陽コロナ磁場計測の成功
2-1)研究の背景

 太陽にはフレアやコロナ質量放出に代表されるような爆発現象が多く存在しており、人工衛星の障害やオーロラの発生など我々の住む地球に様々な影響を与えています。これらの爆発現象の多くはコロナと呼ばれる太陽の上層大気で発生しており、その発生にはコロナの磁場が密接に関わっていると考えられています。よって、コロナ中の磁場の測定は太陽の諸現象を理解するためだけでなく、地球環境への影響を予測する宇宙天気予報を行う上でも非常に重要な課題となっています。しかしコロナは大気が不安定な上、磁場強度が弱いため磁場測定が難しく、これまでは測定が比較的容易な太陽表面(光球)の磁場を用いてその上層のコロナの磁場を外挿する、ポテンシャル磁場と呼ばれるモデルを用いたコロナ磁場の推測が主となっていました。
 電波観測による太陽磁場測定はこれまで数例ありましたが、得られる磁場には太陽大気の彩層とコロナの2層の成分が混在しており、両成分の分離が課題となっていました。本研究は、これまでの電波観測に加え、人工衛星による極端紫外線観測を組みわせることにより、コロナ単体の磁場測定を試みました。また、測定した磁場とポテンシャル磁場モデルを比較することにより観測とモデル相互の精度を検証しました。

2-2)研究の概要

 電波で観測される物理量には放射源の明るさに対応する輝度成分と、磁場強度に対応する円偏波成分の2種類が有ります。これまでの研究により、この輝度成分と偏波成分の比(円偏波率)が放射源の磁場強度に比例していることが分かっており、両成分を測定することで対象の磁場強度を測定することができます。しかし、野辺山電波ヘリオグラフの17GHzという周波数で太陽を観測した際に得られる輝度・偏波成分には彩層とコロナの両方の大気層から放射される成分が混在しています。本研究ではSolar Dynamics Observatory (SDO) 衛星のAIAという極端紫外線観測装置でコロナ中のプラズマ量を測定し、コロナから放射される電波の輝度成分を逆算しました。また、太陽表面付近で磁場が弱く、彩層から放射される円偏波成分を無視出来る領域を選択しました。このようにコロナ単体の輝度・円偏波成分を取り出すことでコロナ磁場の測定を試みました。

 まず初めに、SDO衛星のHMIという装置によって測定された光球視線方向磁場*1と野辺山電波ヘリオグラフによって測定された偏波分布を比較しました(図2)。

20160209-02.png図 2 SDO/HMIが観測した光球視線方向磁場。
赤と青の等高線はそれぞれ電波で見た時のN極磁場、S極磁場に対応する偏波。

 その結果、太陽表面の細かくまとまった磁場構造に対して、電波で観測された偏波の分布は広がった構造を持っていることが分かりました。また、図中の背景が灰色の部分は太陽表面の磁場が非常に弱い領域ですが、そのような領域でも円偏波が有意に放射されていることが分かります。これらの領域のコロナ中のプラズマ量の分布を見ると、多くのプラズマがコロナ中に存在することが分かりました(図3)。

20160209-03.png図 3 SDO/AIAで測定したコロナ中のプラズマ分布 (エミッションメジャー)。

 太陽表面で磁場が弱いにも関わらず円偏波が有意に放射されており、コロナ中に多くのプラズマが存在するということは、これらの領域ではコロナ磁場に起因する円偏波が支配的だと考えることができます。本研究では太陽表面の磁場が弱く、円偏波が有意に放射されている5つの領域(図2の白枠で囲まれた領域)でコロナ磁場の測定を行いました。その結果、コロナ磁場として約150-270G(ガウス)という値が得られました。
 次に、測定した磁場の精度を検証するため、ポテンシャル磁場モデルとの比較を行いました。SDO/AIAによって観測したコロナ中のループ構造とポテンシャル磁場の磁力線の構造は良く一致しており、観測対象がポテンシャル磁場に近い構造を持っていることが分かりました(図4)。続いて、ポテンシャル磁場の高度ごとの視線磁場強度分布と円偏波の分布を比較しました(図5)。その結果、ちょうどコロナに対応する高度20,000km程度(図5の上から3番目)付近でポテンシャル磁場の分布と円偏波の分布が一致していることが分かりました。しかし、この領域のポテンシャル磁場の視線磁場強度値は20-40G程度であり、電波によって測定した視線磁場強度値(150-270G)より一桁経度小さい値を示していました。ひので衛星のデータも加えて同じ領域のプラズマ密度の再推定を行うなどして、この差の原因を検討した結果、最終的に電波観測から求められたコロナ磁場強度は、上限100-210G、下限80-130Gという値になりました。この値は、依然としてポテンシャル磁場モデルで得られた値よりも数倍程度大きい値であり、ポテンシャル磁場モデルはコロナ磁場強度を再現できていない可能性を示唆しています。
 本研究では、野辺山電波ヘリオグラフの電波観測と人工衛星の極端紫外線観測の組み合わせによりコロナ磁場強度を測定する手法を開発し、より正確なコロナ磁場強度を理論モデルを介さずに求めることに成功しました(図6参照)。更に、ポテンシャル磁場モデルとの比較を行い、ポテンシャル磁場モデルが現実のコロナ磁場を再現しきれていないことを示しました。今後、本結果を用いることで太陽コロナ磁場を推定する理論モデルに制限を加え、コロナ磁場の情報が不可欠な宇宙天気予報等に役立てられることが期待されます。

20160209-05.png

図4 SDO/AIAが観測した極端紫外線像(171Å)白と黒の線はポテンシャル磁場モデルの磁力線。

ポテンシャル磁場(視線成分)の高度分布

図5 ポテンシャル磁場(視線成分)の高度分布。背景の白はN極磁場、黒はS極磁場に対応。赤と青の等高線はそれぞれ電波で見た時のN極磁場、S極磁場に対応する偏波。

 

20160209-06.png

図6 図の上方にある地球上の電波望遠鏡から観測すると、領域Aは、太陽黒点付近の彩層からの電波放射とその上空のコロナからの電波報謝が混ざって観測され、両者を分離することはできない。領域Bは、コロナ中では磁力線が広がっているので、黒点の影響を受けずに、純粋にコロナからの電波放射を観測できる。本論文では、領域Bからの電波放射の情報に、同じ領域からの極端紫外線の情報を加えて、コロナ磁場強度を観測的に求めることに成功した。

2-3)発表論文の情報

<論文タイトル>
Coronal Magnetic Fields Derived from Simultaneous Microwave and EUV Observations and Comparison with the Potential Field Model
<著者名>
Shun Miyawaki, Kazumasa Iwai, Kiyoto Shibasaki, Daikou Shiota, and Satoshi Nozawa
<雑誌名>
The Astrophysical Journal DOI:10.3847/0004-637X/818/1/8
<掲載日>
2016年2月10日

2-4)補足説明

視線方向磁場:
 ベクトル量である磁場の成分のうち、観測者方向に沿った成分のこと。
ポテンシャル磁場モデル:
 光球磁場強度の測定値を元に、エネルギー最小の状態を仮定して計算されるモデル磁場。

3)野辺山電波ヘリオグラフ及び本研究に関する問い合わせ先:

名古屋大学宇宙地球環境研究所 准教授 増田 智
TEL:052-747-6341 FAX:052-747-6334
E-mail:masuda@stelab.nagoya-u.ac.jp