飛翔体観測推進センター
本研究所では、地球表層から宇宙空間に至る極めて広い領域での自然現象を対象としていますので、それぞれの領域や現象に最適化された計測による実証的で 先端的な研究が求められています。特に、航空機・気球・観測ロケット・人工衛星などの飛翔体による観測は、産学官の連携による技術開発が目覚ましく、世界的にも著しく発展している分野です。飛翔体観測推進センターでは、宇宙太陽地球システムという包括的視点に基づく領域横断的な共同利用・共同研究拠点の機能を最大限に活用し、研究所・センターがこれまで整備してきた地上観測網に加え、飛翔体による計測が必須となる対象・領域において、新たに展開されるべき 新機軸の観測計画を策定・実施するとともに、その遂行に必要な技術開発を推進します。
飛翔体観測推進センターでは、日本の航空機観測の中核的役割を果たし、他機関と連携して航空機による地球表層圏の水・物質循環の直接および遠隔観測を推進します。また、宇宙と地球の間に生起する物理現象に関する新しい知見をもたらすべく、観測ロケットや探査機・人工衛星による宇宙空間での観測計画を国内外の機関と協同しつつ検討・推進します。
同時に、次世代の飛翔体搭載機器に必要な計測技術と開発環境の効率的な集約・共通化を行い、分野融合的な活動を展開することで、これからの飛翔体観測に求められる計測技術の発展に寄与します。これにより、国内外の研究者・技術者とともに、密接に関連する分野における観測的・技術的研究に貢献し、地上観測・モデリングと協同することで分野全体の発展をもたらす飛翔体観測計画の策定・実施を牽引します。
本センターで現在取り組んでいるプロジェクト、技術開発は次の通りです。
日本の航空機観測の中核的拠点の構築
航空機観測の利点である、地上観測の無い地域における観測や機動的な観測は、地球表層圏の水・物質循環研究の中でも特にエアロゾルの直接観測やエアロゾルと雲の相互作用の研究、台風の発達過程の研究等においてブレークスルーとなる成果が期待できます。一方で、航空機観測はコストの面や航空機に観測機器を搭載するための技術的なノウハウの必要性などが研究推進の妨げとなっており、国内の航空機観測拠点である県営名古屋空港に近いという地の利を活かした航空機観測を積極的に推進してきた実績をもつ名古屋大学への期待が日本気象学会等から寄せられています。本センターでは航空機観測の中核的拠点を構築し、国内の航空観測研究の取りまとめや観測機器の航空機搭載技術を受け持つことにより、効率的かつ航空機実験に参加しやすい環境を整える計画です。
航空機による台風観測のイメージ図
気球を用いた二酸化炭素の高度分布計測装置の開発と観測の実施
地球温暖化の原因となる温室効果気体の二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)の大気中の濃度を詳しく計測し、その結果から放出・発生や吸収過程を推定することは、今後の温暖化の対策を考える非常に重要です。我々は、比較的小型の気球を使用して、地上から10 km程度までの温室効果気体CO2の濃度分布を測定装置の開発を進めており、日本の各地および世界の様々な場所でのCO2の高度分布を実施しています。気球CO2ゾンデは、雲があっても測定でき場所を選びません。また、人工衛星データとの比較が可能です。低価格の気球搭載二酸化炭素計で高度分布が観測できるようになると、既存の気象観測ネットワークにこの観測を加えることにより、気候変化予測に必要な観測体制を短期間に完成することができます。
宇宙科学探査計画への適用を目指した超小型衛星標準バスの検討・開発
将来の実証的宇宙科学における探査衛星計画を主導するため、探査機として適用する事が可能な100~200 kg級衛星の標準バスの検討・開発を推進しています。過去の宇宙探査計画における理学観測機器の開発実績が豊富なメーカーと協同しつつ、日本宇宙航空研究開発機構の理学・工学研究者との議論を軸に、通信・電源・姿勢監視/制御用の標準バスコンポーネントの策定と衛星構造の基本設計、衛星姿勢・軌道制御用推進系の概念設計、モデル理学観測計画を想定した所定軌道への打ち上げ方法の検討、宇宙放射線環境レベルの見積と衛星標準バスシステムへの適用性の確認、等を行っています。観測用アンテナやマストと呼ばれる伸展構造物の搭載にも対応できるように、また、近地点上昇や複数衛星の編隊飛行形態変更などの軌道修正、及び高度な理学観測要求に応えるための姿勢変更・精密制御も実現できるように、多面的な検討を統括しつつ、新しいクラスにおける衛星標準バスを開発しています。
50 kg級超小型衛星ChubuSatの開発
超小型衛星は、開発費用を大幅に低減できるため、大型衛星ではリスクが高すぎる先進的・萌芽的技術に基づいた観測機器を短期間に開発・搭載し、軌道上で検証することが可能となります。また、費用の低減によって、人工衛星の新しい産業利用を生み出すことが期待できますので、航空宇宙産業の中心地である中部地方の活性化に大きく寄与することを目指しています。
すでに1号機が2014年11月に打ち上げられました。また、2016年2月17日に打ち上げられた太陽中性子観測を目的の一つとする2号機の開発に寄与しました。