名古屋大学 宇宙地球環境研究所
宇宙線研究部(CR 研究室)

LHCf/RHICf 実験

主な担当教員・研究員

教授 伊藤いとう 好孝よしたか
助教 毛受めんじょう 弘彰ひろあき
  1. LHCf実験・RHICf実験
    1. LHCf実験
    2. RHICf実験
  2. 宇宙線と高エネルギー相互作用
  3. 実験の概要
  4. 実験の歴史
  5. 今後の計画

LHCf実験・RHICf実験

LHC forward (LHCf) 実験とRHIC forword (RHICf) 実験は、それぞれスイスの欧州原子核研究機構(CERN)にある衝突型粒子加速器LHCとアメリカのブルックヘブン国立研究所にあるRHIC加速器を用いて、超前方領域での生成粒子を測定する実験です。この研究によって、1014 eV から 1017 eV 領域での宇宙線シャワーモデルの検証を行っています。

LHCf実験

LHC加速器はスイスのジュネーブ近郊の地下に設置された直径 27 kmにも達する巨大な粒子加速器です。LHC加速器では、加速リングの右回りと左回りそれぞれで陽子を光速近くまでさせて、衝突点と呼ばれる場所で正面衝突させます。その衝突エネルギーは重心系で 14 TeVにも達します。LHCf実験では、LHC の陽子衝突点(IP)の 0 度方向に小型カロリメーターを設置し、超前方へのガンマ線、中性子を測定します。日本、イタリアを中心とする 6 カ国、30 人あまりの国際共同実験で、名古屋大学がグループ全体を主導して実施しています。

LHCf 実験公式ウェブページ

LHC
図1 ヨーロッパ原子核研究機構(CERN)とLHC加速器(大きな円)
LHCfarm1
写真1 LHC加速器トンネル内に設置されたLHCf検出器

RHICf実験

LHCf実験で使われた2台の検出器の内、1台をブルックヘブン国立研究所のRHIC加速器に設置して、LHCf実験同様に陽子衝突の 0 度方向に生成される粒子を測定します。RHIC加速器の重心系衝突エネルギーは、510 GeVです。LHC加速器での結果と比較することで陽子衝突での粒子生成の衝突エネルギー依存性を調べることができます。また、RHIC加速器は加速される陽子のスピンを偏極させることができます。スピン偏極向きに対する超前方粒子の生成分布を測定することで、陽子のハドロン構造の解明も目指しています。RHICf実験は、LHCf実験の共同研究者に理化学研究所のメンバーが参加して実施しています。

RHICf 実験公式ウェブページ

rhicf
写真2 RHIC加速器に設置された検出器(写真中央の長方形のアルミボックス)。

宇宙線と高エネルギー相互作用

高エネルギー宇宙線である陽子が大気に突入すると、窒素や酸素原子核と衝突してたくさんの粒子を発生させるカスケードシャワー(空気シャワー)を起こします。高エネルギー宇宙線の観測は、この空気シャワー中の粒子を観測しています。

空気シャワー粒子は、陽子の進行方向(超前方)に放出された粒子からの寄与が大部分です。通常の高エネルギーコライダー実験では測定が行われない領域です。しかしながら宇宙線観測にはまさにこの領域での陽子反応の知識が問題となってきます。

LHC での 7 TeV + 7 TeV の陽子陽子衝突は、1017 eV の宇宙線の反応に相当します。これまでこのような超高エネルギー反応の実験データは存在せず、最高エネルギー宇宙線の問題や一次宇宙線組成の問題において、解釈の不定性となってきました。それをLHCで実測し、宇宙線物理学の大問題に決着をつけようというのが LHCf 実験の目的です。

airshower
図2 宇宙線が地球大気と衝突して生じる空気シャワーのイメージ図。生成された粒子がさらに衝突することで粒子が多数生成されて、地上に降り注ぐ。(© Simon Swordy (U. Chicago), NASA)

実験の概要

陽子・陽子衝突の概念図LHCf実験では、アトラス検出器のあるビーム衝突点 IP1 から 140 m 離れた地点で、2 本の陽子ビームパイプの隙間に 2 cm 角から 4 cm 角の小型のシャワーカロリメーターを設置します。この場所では、陽子陽子衝突から 0 度方向に放出された中性粒子を捕らえることができます。0 度方向への粒子放出は莫大であるため、LHC のビーム強度を落として実験を行います。

Geant4 による LHCf 検出器のシミュレーション

実験の歴史

LHCf 実験は、LHC 加速器が運転を開始した 2009 年末に最初のデータ取得に成功し、2017 年までに様々な衝突条件のデータを取得しました。解析結果も順次公開しており、宇宙線と地球大気衝突の理解にむけたさらなる研究をすすめています。

2009 年 11〜12月   LHC 最初の陽子陽子衝突で重心系 900 GeV 衝突データの取得に成功
2010 年 3〜7月   重心系 900 GeV、7 TeV 陽子陽子衝突データの取得に成功
2013 年 1〜2月   重心系 5 TeV の陽子鉛衝突データと 2.76 TeV の陽子陽子衝突データの取得に成功
2015 年 6月   重心系 13 TeV 陽子陽子衝突データの取得に成功
2016 年 11月   重心系 5 TeV と 8 TeV の陽子鉛衝突データの取得に成功
2017 年 6月   RHICf実験 重心系 510 GeV の陽子陽子衝突データの取得に成功

今後の計画

LHCf グループでは現在これまでに取得したデータの解析をすすめています。すでに数件の論文を発表し、宇宙線空気シャワーシミュレーションに用いられている反応モデルに強い制限を与えています。特に今は世界最高エネルギーの 13 TeV データの解析に注力しています。また、衝突データを共有する ATLAS 実験との共同解析も進め、新たな視点で粒子生成の理解に迫ろうとしています。

RHICf 実験で取得されたデータの解析も同時に進めています。LHCfとRHICf実験の両方の測定結果を比較することでハドロン衝突による粒子生成の衝突エネルギー依存性を研究することができます。

今後の計画として、LHCf実験ではLHC Run3期間(2021-2024)に2つの測定を予定しています。1つ目は、陽子陽子衝突の再測定です。これまでに取得したものよりも10倍のデータ量を取得することによって、η中間子やK中間子といったストレンジクォークを含む粒子の測定を目指しています。そのために、現在はデータ取得システムの改良を進めており、2021年に測定を行う予定です。2つ目は、LHC加速器での陽子と酸素原子核の衝突の測定です。これまでの測定は陽子と陽子、もしくは陽子と鉛原子核に限られており、高エネルギー宇宙線と地球大気の相互作用を考えると原子核が異なります。そのため、実際の宇宙線と大気の衝突の再現する陽子と軽原子核である酸素原子核の衝突を測定することで、理想的な条件での測定が可能になります。この測定は2024年頃を予定しています。