大学院進学・入試(院試)案内
- 2024 年度入試(2025 年度入学)の最新情報
- 大学院受験を目指す方へ
- CR 研の研究環境
- 大学院生の経済的な支援
- 大学院入試(院試)の仕組み
- CR研では、幅広い興味を持ち、やる気のある大学院生を募集しています
- 宇宙線(Cosmic Rays)
- 研究内容
※2 遠方の方やリモートでの研究室訪問を希望される方は、Zoom などを使用した研究室訪問・進学相談を各希望者に用意しますので、お問い合わせください。
2024 年度入試(2025 年度入学)の最新情報
2024 年度の大学院入試(2025 年度 4 月入学)は「2025 年大学院入試」のページに日程の詳細が掲載されています。
大学院受験を目指す方へ
名古屋大学宇宙地球環境研究所(ISEE)の宇宙線研究部は、実験系宇宙線物理学をその手段とし、素粒子物理学と宇宙物理学にまたがる研究を行なっています。私たちは宇宙線物理学研究室(CR 研)として、名古屋大学大学院の理学研究科理学専攻の 3 つのコース(宇宙地球物理学コース、素粒子・ハドロン物理学コース、天文・宇宙物理学コース)にまたがり、博士前期課程(修士課程)・後期課程の研究教育に参加しています。
CR 研の大学院生は理学専攻に所属し、自分の興味や研究テーマに応じて上記のコースから 1 つを入進学後に選択します。どのコースを選択しても CR 研での大学院生活は大きく変わらず、名古屋大学東山キャンパス内にある ISEE の建物で研究を行います。

CR 研では複数の教員が様々な実験・観測プロジェクトを進めています。やりたい研究内容と指導教員を決めてから CR 研を受験する学生もいれば、進学先として CR 研を選び、最終的な研究テーマと指導教員を 4 月に決める学生もいます。詳しくは「研究について」および各研究内容のページと、「構成員」から教員の紹介をご覧ください。
CR 研の研究環境
横断的な研究
進学先としての CR 研の最大の魅力は、9 名の教員の集まる大きな研究グループであるということです。全員で同じ実験プロジェクトに取り組むわけではなく、それぞれの教員が異なる実験・観測プロジェクトに参加しています。そのため、大学院生は特定のプロジェクトのみに特化した知識や技能のみを身に付けるだけでなく、異なる実験手法、異なるプロジェクトの視点からも、多角的に教育を受けることが可能です。
例えば、CR 研では各実験プロジェクトごとの打ち合わせとは別に、毎週月曜日に研究室全体での打ち合わせや、最新論文の紹介コロキウムを 30 名近くで合同で行います。そのため単純に「宇宙線」と言っても、太陽フレアや低エネルギーの宇宙線から、超高エネルギー宇宙線、地球環境への影響、ニュートリノ、暗黒物質探索など、幅広いテーマについて一緒に学びます。また学位論文や学会発表の指導でも、異なる実験プロジェクトに参加する教員の視点から、助言や指導を受けることが可能です。
CR 研の複数の教員は、同一キャンパス内にある素粒子宇宙起源研究所(Kobayashi–Maskawa Institute for the Origin of Particles and the Universe、KMI)にも所属しています。また様々な観測波長の宇宙望遠鏡のグループ(Ugx 研、Uir 研)、電波望遠鏡のグループ(A 研)、高エネルギー素粒子実験(N研、F研、Φ研)のグループ、また理論研究グループ(EHQG研、C研)との連携も活発です。
宇宙地球環境研究所(ISEE)
CR 研は宇宙地球環境研究所に所属しているため、宇宙線物理学のみならず、太陽やオーロラの研究者、地球大気、海洋などの、様々な周辺分野の研究者・学生とも交流することができます。
ISEE は基盤研究部門の他に「技術部」を擁します。技術部には機械加工や電子回路などに詳しい専門の技師が 10 名以上在籍しており、彼らの支援を受けながら実験研究を進められるのも、研究所という場で研究することの魅力です。
CR 研の入る研究所共同館 I は 2013 年に完成したばかりの新しい建物で、窓やガラス張りの箇所が多く開放的です。キャンパスは緑が多く、またキャンパス周辺は住宅街のため喧騒から離れています。地下鉄を使えばすぐに名古屋中心部や繁華街に出ることもできます。
大学院生の経済的な支援
詳細は「大学院生の経済支援について」をご覧ください。
大学院入試(院試)の仕組み
大学院は博士前期課程(修士課程)と博士後期課程(博士課程)に分かれます。
博士前期課程
博士前期課程(修士課程)の入試は7月中旬に実施される自己推薦入試と、8月末に実施される一般入試の 2 種類があります。また翌年 2 月末に、定員の空き状況によって二次募集の実施される場合があります。
毎年 6 月頃に入試説明会と研究室の一斉説明会があります。大学院受験希望の方は自己推薦入試・一般入試に関わらず、好きな研究室を最大 4 つまで選び、順番に各研究室の説明会に参加することができます。宇宙や素粒子に興味のある方は、ぜひ CR 研の研究室説明会にお越しください。
大学院の入試制度の詳細は宇宙地球環境研究所ウェブページと、素粒子宇宙物理学専攻のウェブページもご覧ください。
博士後期課程
他大学で修士の学位を取得後、博士後期課程から編入することも可能です。他大学などからの受験者には学力試験(修士論文又はそれに代わる既発表や発表予定の研究論文の講演及び専攻の口述試験)を行います。学力試験は例年 2 月中旬、願書受け付けは例年 1 月中旬に行う予定です。
CR研では、幅広い興味を持ち、やる気のある大学院生を募集しています
私達宇宙線物理学研究室は50年以上の長い歴史がありますが、最先端のテーマを追う若い学生で活気が満ちています。自分で検出器を作って自分で動かす、ハードウェア・ソフトウェアの両面に強い学生を育てることが教育方針です。卒業生は企業や研究機関へ就職後、非常に役に立つ知識と技術を本研究室で習得することができます。
宇宙線(Cosmic Rays)
宇宙線物理学は、宇宙物理、素粒子・原子核物理、地球物理の 3 分野にまたがる学問です。宇宙の極限環境での物理、宇宙線に影響を受ける地球環境を研究の対象とします。
宇宙線は英語で cosmic rays と言われます。私達の研究室の略称 CR はこの頭文字をとっています。宇宙線は、宇宙から地球に降り注いでいる放射線で、Hess は 1912 年にこれを発見し、1936 年にノーベル物理学賞を受賞しました。宇宙線の主成分は陽子であり、電子や原子核などの荷電粒子や、ガンマ線などの高エネルギー光子やニュートリノも含みます。宇宙のどこかで生まれた宇宙線は、星間磁場や太陽・地球の磁場による影響を受けながら地球へ到達します。
宇宙線の起源は完全には解明されていません。太陽中性子の観測や宇宙ガンマ線の観測により宇宙線の起源を解明し、地球近傍のプラズマや太陽の表面、あるいは超新星残骸など宇宙プラズマにおける粒子加速機構を理解することが、CR 研での研究のひとつです。
宇宙線は、かつては陽電子、中間子の発見、最近ではノーベル賞を受賞したニュートリノ振動の発見など、天然の素粒子実験の場として大きな役割をはたしてきました。CR 研では、LHC 加速器での超高エネルギー宇宙線衝突の研究や、ニュートリノ・暗黒物質の研究など、宇宙と素粒子にまたがる謎にも挑んでいます。
宇宙線は地球大気に突入して電離を起こし、また原子核反応により放射性炭素 14 などの宇宙線生成核を作り出します。宇宙線を調べることで、地球周辺の磁場の様子や変動の歴史を知ることができます。CR 研では、年輪中炭素 14 の測定などを通じて、宇宙線と太陽・地球との関わりを探っています。宇宙線は、ユニークな素粒子実験の場を提供し、宇宙の高エネルギー現象について情報をもたらします。また、磁場に影響される宇宙線は太陽地球環境を調べるプローブにもなります。この様に宇宙線の研究は素粒子・原子核物理、宇宙物理から地球物理まで幅の広い領域にまたがっており、我々の研究室にも様々な研究テーマがあります。
研究内容
宇宙線加速機構の解明
宇宙線は、陽子やヘリウム、鉄の原子核等が、「なんらかの」加速機構で、非常に高いエネルギーまで加速された粒子で、その起源は宇宙物理学上の大きな謎となっています。高エネルギー宇宙線やガンマ線の観測によりその起源を解明し、その加速機構を理解することが、宇宙線研究の主目的のひとつです。ガンマ線は、宇宙線と星間ガスの相互作用で生成され、荷電粒子と異なり星間磁場で進行方向を曲げられることがありません。そのため、ガンマ線観測は宇宙線の加速現場を研究する有力な方法です。2008 年に打ち上げられたフェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡による 10 億電子ボルトエネルギー帯のガンマ線観測で得られたスペクトル解析により、W44、IC 443 などの超新星残骸で、宇宙線加速の決定的な証拠をつかむことができました。同時に、次世代のガンマ線観測装置であるチェレンコフ・テレスコープ・アレイ(CTA)のカメラを開発しています。CTA によって超新星残骸における宇宙線加速機構や、銀河系外の宇宙線起源に関する研究をさらに進めていきます。
上述のような粒子加速は、宇宙のいたるところに存在するプラズマが起こす普遍的な現象で、地球近傍や太陽の表面でも、スケールこそ違え同様の現象が起こっています。太陽表面は我々に最も近い宇宙線源であり、太陽フレアと呼ばれる爆発現象に伴い粒子加速が起こっています。この時放出される太陽中性子を測定することで、粒子加速の現場を捕らえることができます。メキシコの高山に新たな太陽中性子検出器を設置して観測を進めているほか、太陽中性子を観測できる機器を搭載した超小型衛星の開発も進めています。
過去の宇宙線変動と全地球的イベントの研究
太陽の放射強度はずっと安定ですが、その磁場活動は 11 年周期で変化し宇宙線強度に影響します。また、太陽フレアと呼ばれる現象により大量の太陽宇宙線が地球に降り注ぐ事があります。宇宙線は大気中で反応し、放射性炭素14などの宇宙線放射性核を作ります。私達は樹齢 2000 年の屋久杉の年輪に含まれる放射性炭素 14 の濃度や南極氷中のベリリウム11などの変化を測定し、過去の宇宙線や太陽活動の変動を研究しています。その中で、AD775-776年に、宇宙線が通常の変動の数10倍増加するイベントが見つかりました。このような現象は他にも見つかっており、人類の社会や文化に何らかの痕跡を残しているかもしれません。
超高エネルギー宇宙線の謎を解明する LHCf 実験
これまで最も高いエネルギーを持つ 10 の 20 乗電子ボルトの宇宙線が空気シャワーの観測から発見され、大きな謎を呼んでいます。これは人類が加速器で生成可能なエネルギーの何桁も上です。いったい宇宙のどこでこのような粒子が生まれているのでしょうか?
超高エネルギー宇宙線の観測では、宇宙線が大気中で反応して生成する 2 次粒子のシャワーを測定しています。しかし、超高エネルギーでの宇宙線の反応は実験データが無くよく分かっていません。私達は 2009 年にいよいよ稼動を始めた世界最高エネルギーの陽子衝突型加速器、ラージハドロンコライダー(LHC)に小さな検出器を組み込み、超高エネルギー宇宙線の反応を実験的に調べる「LHCf 実験」を推進しています。また、米国ブルックヘブン研究所の重イオンコライダー(RHIC)でも同様の「RHICf実験」を行い、偏極陽子を使った反応を研究しています。ここで得られる素粒子実験データは、宇宙線観測の精度を上げると共に、加速器では実現不可能なもっと高いエネルギーの現象を宇宙線によって探る糸口となるでしょう。
ニュートリノによる物質の起源の理解
ニュートリノは質量をほとんど持たず、中性で弱い力しか感じない貫通力の強い素粒子で、太陽の核融合、超新星爆発、大気と宇宙線の衝突など、宇宙のあらゆる場所で生成されています。3種類のニュートリノは、量子力学的に混ざり合い、飛行中に種類が変わるニュートリノ振動を起こします。ニュートリノ振動の研究から、ニュートリノにおいて粒子と反粒子の振る舞いが異なること(CP対称性の破れ)がわかってきました。これは、宇宙と物質に起源の謎を解き明かす鍵と考えられています。また、貫通力の強いニュートリノは、太陽内部や超新星爆発など通常の観測で知ることのできない情報をもたらします。
私達は、神岡地下施設にある5万トンの水チェレンコフ検出器スーパーカミオカンデで、ニュートリノの不思議な性質を探ると共に、ニュートリノによる宇宙の観測を行っています。スーパーカミオカンデでは、ガドリニウム塩を添加して、過去の超新星爆発が生成して宇宙空間を飛び交っている残存ニュートリノの探索を始めます。さらに、スーパーカミオカンデの8倍の有効体積を持つハイパーカミオカンデの建設も始まり、2027年からの観測開始を目指して準備を続けています。この将来のニュートリノ観測に向けて、私たちの持つ宇宙線反応研究の蓄積を生かして、大気ニュートリノ生成モデルの高度化も行っています。
暗黒物質の探索
宇宙の全質量の大部分は説明のつかない物質「暗黒物質」で担われていることがわかっています。 暗黒物質の正体や性質については、おそらく私達の知らない未知の素粒子だろうと考えられていますが、まだ理論的・実験的な制限が十分でないため、我々は宇宙観測や地下実験など様々なアプローチで探索しています。
宇宙観測においては、暗黒物質が集積してる場所において対消滅して生成されるガンマ線を検出することで、暗黒物質の証拠を掴むことができます。ガンマ線衛星・フェルミでは、通常の物質に対する暗黒物質の存在比が非常に高い(1000 以上になる場合もある)と考えられている矮小楕円体銀河と呼ばれる銀河系近傍の天体からのガンマ線を探査しましたが、暗黒物質の証拠は見つけられませんでした。この結果は、陽子の 100 倍程度までの質量を持つ暗黒物質が存在しないことを示唆してます。さらに、陽子の 1 万倍程度までの質量の暗黒物質を検出する能力をもつ地上チェレンコフ望遠鏡の次世代装置 CTA の開発・建設に取り組んでいます。
スーパーカミオカンデでは、太陽や地球、銀河中心に集積した暗黒物質が対消滅して生成する高エネルギーニュートリノを探索しています。ニュートリノは貫通力が高いため、太陽中心の暗黒物質が作ったニュートリノ観測することができます。
また地下実験では、検出頻度の低い暗黒物質が液体キセノンを通り抜けた痕跡をつかむ「直接探索実験」を行っています。私達は、イタリア・グランサッソー地下研究所で行われている、8.6トンの液体キセノンを用いたXENONnT実験で、世界最高感度での暗黒物質探索を行っています。XENONnT実験は2021年7月に観測を始め、放射線物質由来の背景事象が世界で最も少ない検出器を実現することに成功しました。またこの検出器を用いて暗黒物質の探索を行い、暗黒物質に対して世界で最も厳しい制限を与えることに成功しました。私達はまた、将来の50トン級液体キセノンを用いた究極の暗黒物質探索実験(DARWIN実験)の実現を目指して、新しい検出器(光検出器、Time-Projection-Chamber、さらにはキセノン純化技術)の開発などを行っています。
私達は人工衛星、地上、地下深くから宇宙を観測し、暗黒物質の正体を明らかにしたいと考えています。もし暗黒物質の正体が確認できれば、宇宙と素粒子物理にまたがる大発見になるでしょう。