名古屋大学 宇宙地球環境研究所
宇宙線研究部(CR 研究室)

CR 研での研究について

宇宙線グループの研究内容

宇宙線物理学は、宇宙物理、素粒子・原子核物理、地球物理の3分野にまたがる学問です。宇宙線による素粒子の物理、宇宙の極限環境での物理、宇宙線に影響を受ける宇宙地球環境が研究の対象です。

宇宙線は英語でcosmic raysと言われます。私達の研究室の略称CRはこの頭文字をとっています。宇宙線は、宇宙から地球に降り注いでいる放射線で、1911年にHessによって発見されました(1936年にノーベル物理学賞を受賞)。宇宙線の主成分は陽子であり、電子や原子核などの荷電粒子や、ガンマ線などの高エネルギー光子やニュートリノも含みます。宇宙のどこかで生まれた宇宙線は、星間磁場や太陽・地球の磁場による影響を受けながら地球へ到達します。

宇宙線は、ユニークな素粒子実験の場を提供し、未知の素粒子や宇宙の高エネルギー現象について情報をもたらします。また、磁場に影響される宇宙線は宇宙地球環境を調べるプローブにもなります。この様に宇宙線の研究は素粒子・原子核物理、宇宙物理から地球物理まで幅の広い領域にまたがっており、我々の研究室にも様々な研究テーマがあります。

宇宙線物理学を中心に、加速器物理、宇宙物理や地球環境まで、幅広い分野にまたがった実験的研究を行っています。

LHCf/RHICf 実験

高エネルギー宇宙線は地球大気と衝突(ハドロン相互作用)して多数の二次粒子を生成します。この反応を実験で再現することができる世界最大の粒子加速器LHCを用いて、ハドロン相互作用の研究を行っています(LHCf実験)。同様の研究をRHIC加速器を用いても行っており(RHICf実験)、これらの研究を通して超高エネルギー宇宙線の起源や加速機構の解明へ貢献しています。


太陽中性子観測

太陽表面でフレアと呼ばれる大規模なエネルギー解放現象が起こると、陽子などのイオンが高エネルギーまで加速されます。このイオンが太陽大気との相互作用で中性子を生成します。この高エネルギー太陽中性子を赤道付近の高山で観測することにより、太陽高エネルギー粒子の加速機構の解明を目指してます。


ニュートリノ研究

ほとんど物質と相互作用しないニュートリノ、その素粒子的性質を調べることで宇宙の誕生や物質の起源の謎を解き明かすことができると考えられています。CR研は、ニュートリノ研究で世界をリードするスーパーカミオカンデ(SK)実験に参加しています。2015年ノーベル物理学賞に輝いたニュートリノ振動の研究だけでなく、暗黒物質の対消滅で生じるニュートリノの探索、高エネルギー天体からのニュートリノの探索、加速器データを用いた大気ニュートリノ生成モデルの開発など、ニュートリノを用いた様々な研究を行っています。また、2020年からSK実験の後継であるハイパーカミオカンデ実験の建設がいよいよスタートし、2027年の実験開始に向けた準備を行っています。


年輪中炭素 14 測定

樹木年輪や氷床コアなどの天然試料に含まれる宇宙線が作り出した同位体(炭素 14 やベリリウム 10 など)から、過去の宇宙線変動や太陽活動に関する知見が得られます。特に観測史上最大の太陽面爆発を大きく上回る規模のイベントが、過去数千年間に繰り返し発生していた可能性が示されています。我々は、古い樹木年輪の炭素 14 を 1 年分解能で測定し、過去の太陽磁場活動や、超巨大太陽面爆発の痕跡について調査しています。


暗黒物質直接探索

暗黒物質がもし弱い相互作用をする素粒子であれば、原子核との反応を捉えることで暗黒物質の正体を解明できるかもしれません。暗黒物質の発見とその正体の解明は、標準理論を超えた新しい物理を解き明かす上で大きな起爆剤となるのみならず、宇宙の誕生やその熱的な歴史の解明においても大きな鍵を握ると考えられています。このように、暗黒物質の直接観測は素粒子物理/宇宙物理の両面において最も大きな課題の一つとなっており、CR 研では液体キセノンを用いた XENONnT 実験に参加し暗黒物質の直接探索を行っています。


宇宙ガンマ線観測

ガンマ線は、宇宙線と星間媒質の相互作用で生成され、荷電粒子と異なり星間磁場で進行方向を曲げられることがないため、宇宙線の加速現場を研究する有力な方法です。また、ガンマ線は、暗黒物質の相互作用によっても生成されるため、暗黒物質探査の有力な方法の一つです。CR研では、人工衛星や地上チェレンコフ望遠鏡を使って、宇宙線の起源や伝播の物理過程の解明や暗黒物質探査に取り組んでいます。