名古屋大学 宇宙地球環境研究所
宇宙線研究部(CR 研究室)

CTA の試作望遠鏡 pSCT が「かに」星雲からのガンマ線検出に成功

概要

チェレンコフ望遠鏡アレイ(Cherenkov Telescope Array、CTA)の試作望遠鏡のひとつである pSCT(図 1.)を用いて、かに星雲からの超高エネルギーガンマ線の検出に 8.3σ の有意度で成功しました。副鏡を用いた Schwarzschild–Couder(シュヴァルツシルト・クーデ)型の 10 m 光学系と、半導体光検出器を用いた焦点面カメラという新たな技術の組み合わせを実証しました。この成果は第 236 回アメリカ天文学会にて発表されました。

これまでの取り組み

宇宙線物理学研究室(CR 研)の田島宏康教授と奥村曉講師らはチェレンコフ望遠鏡アレイ(Cherenkov Telescope Array、CTA)計画に参加しています。私たちは CTA の中口径望遠鏡デザインの一つである Schwarzschild–Couder Telescope(SCT)の焦点面カメラや光学系の開発にこれまで 10 年以上にわたり取り組み、2019 年にはその試作望遠鏡である pSCT の完成記念式典を開催することができました(図 1.)。

CR 研ではこれまで、CTA の複数の望遠鏡デザインの開発で様々な貢献を果たしています。このうち SCT の開発では、次の要素に中心的に関わってきました。

  • 焦点面カメラに使用する半導体光検出器の開発
  • 光検出器からの出力信号をトリガーおよび波形記録するための専用集積回路の開発
  • 焦点面カメラの制御とデータ収集ソフトウェアの開発
  • Schwarzschild–Couder 光学系のシミュレーション
pSCT Inauguration
図 1. 2019 年 1 月 17 日に開催された pSCT の完成記念式典の様子。米国アリゾナ州のフレッド・ローレンス・ウィップル天文台にて。(図提供:Deivid Ribeiro、Columbia University)

かに星雲からのガンマ線の検出

pSCT は 2019 年 1 月に完成式典を終えた後、同じ週にファーストライトを迎え、高エネルギー宇宙線の生じる大気シャワーを大気チェレンコフ光を使って観測しました。その後 pSCT でかに星雲を観測し、超高エネルギーガンマ線でかに星雲を 8.3σ の有意度で検出することに成功しました。

かに星雲は高エネルギーガンマ線を放射する天体としては最も有名であり、様々なガンマ線望遠鏡が性能実証をするために観測対象として選ばれます。今回の観測で、pSCT のガンマ線望遠鏡としての能力が実証されたことになります。本観測の成果は、第 236 回アメリカ天文学会にて発表されました。

pSCT Cherenkov movie
図 2. かに星雲からのガンマ線が引き起こした、大気シャワーの pSCT による観測結果。1 コマごとの明るく細い領域が、大気シャワー中の大気チェレンコフ光の撮像結果。
Crab Significance Map
図 3. pSCT によるガンマ線の有意度分布。かに星雲方向(図中央)の有意度が高くなっている。
Crab Alpha Distribution
図 4. 視野中心方向と大気シャワーの方向とのずれ。赤線がかに星雲観測時、黒線がバックグラウンド領域観測時のもの。