宇宙ガンマ線観測
主な担当教員・研究員
- ガンマ線観測による宇宙素粒子物理学の研究
- チェレンコフ望遠鏡アレイ天文台(CTAO)による宇宙線研究
- フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡(フェルミ衛星)によって解き明かした宇宙線の起源
- X 線衛星:ひとみ(ASTRO-H)
- MeV ガンマ線観測衛星 AMEGO の開発
- 銀河系外の宇宙線の起源にせまる
ガンマ線観測による宇宙素粒子物理学の研究
宇宙線加速天体の研究
宇宙線は宇宙から降り注ぐ放射線で、すくなくとも 109 電子ボルト(1 GeV)から 1020 電子ボルト(100 EeV)以上まで幅広いエネルギー分布を持ちます。宇宙線は、100年以上前の 1912 年にオーストリアの科学者 Victor Franz Hess によって発見されました。当時箔検電器に蓄えられた電荷が自然放電するのは、地殻からの放射線によるものと考えられていました。そこで Hess らが気球に乗って放射線強度の高度依存性を測定したところ、高度が上がるほど放射線が強くなることを発見しました。この発見により、エネルギーの高い放射線が地球の外側、すなわち宇宙から降り注いでいることがわかり、宇宙線と呼ばれるようになりました。
宇宙線のエネルギーは、人類が粒子加速器で実現できるエネルギー(7 × 1012 電子ボルト)をはるかに凌駕しているため、その加速に関わる物理過程や天体の環境は非常に興味深い謎です。宇宙線生成の物理過程を理解する第一歩となるのが、宇宙線を加速する天体(宇宙線の起源)を見つけることです。残念ながら荷電粒子である宇宙線は、乱流状態の星間磁場・銀河間磁場によるローレンツ力のため直進できないため、宇宙線の到来方向を地球で測定しても起源天体の方向を決定することはできません。一方、宇宙線と星間ガスの相互作用で発生するガンマ線は、磁場に影響を受けず直進できるため、宇宙線の起源とその伝播を研究する上で最も有力な手段と考えられています。可視光の観測で星の輝きが観られるのと同様、ガンマ線観測によりガンマ線放射天体、すなわち宇宙線加速天体を見つけることができます。
これら天体には、超新星残骸や銀河中心領域のブラックホール、活動銀河核やガンマ線バーストなど、様々な候補が存在します。CR 研の宇宙ガンマ線観測グループでは、人工衛星や地上望遠鏡でこれらガンマ線天体の観測を行い、宇宙線加速の研究を進めています。
ガンマ線による暗黒物質間接探索
ガンマ線による宇宙観測の役割は、宇宙線の研究だけではありません。宇宙素粒子物理学の最大の謎の一つである暗黒物質の探索にもガンマ線観測は重要な役割を果たします。
それ自身が電磁波を発しないものの質量を持つ謎の物質として、暗黒物質と呼ばれる未知の物質が宇宙には大量に存在することが様々な観測から明らかになっています。暗黒物質それ自身は電磁相互作用を起こさず可視光やガンマ線を放射しないため、電波や可視光による通常の電磁波観測では暗黒物質が宇宙にどのように広がっているか、どのような性質を持つ物質か、また素粒子なのかということは明らかにできません。しかし、もし暗黒物質が「相互作用の弱い重い粒子」(Weakly Interacting Massive Particle、WIMP)と呼ばれる素粒子であれば、WIMP 同士の対消滅の結果、ガンマ線が放射されると考えられています。
強い重力場により通常の物質が集中する銀河中心などの領域には、質量を持つ WIMP も同様に密集していると考えられています。そのため銀河中心領域では WIMP 同士の衝突頻度が高くなるため、WIMP に起因するガンマ線放射が大きい領域であると期待されています。高感度のガンマ線望遠鏡でこの銀河中心領域を観測して WIMP 特有の空間分布やスペクトル形状を持つガンマ線放射を検出できれば、暗黒物質の証拠を見つけることができます。
ガンマ線グループの取り組み
CR 研のガンマ線グループでは、次に紹介するガンマ線望遠鏡を使った高エネルギー天体の観測や、新たな観測手法の開発に取り組んでいます。100 keV(105 電子ボルト)から 100 TeV(1014 電子ボルト)の 9 桁に及ぶ広帯域のガンマ線観測により、宇宙線研究を推進しています。
チェレンコフ望遠鏡アレイ天文台(CTAO)による宇宙線研究
PeVatron の探索
地球で観測される宇宙線陽子は 1020 電子ボルトに達しており、そのうち 1015 電子ボルト(PeV)までは銀河系内の宇宙線加速天体により効率よく加速されていると考えられています。しかしこのような PeV 帯域まで宇宙線陽子を加速する天体(通称 PeVatron、ペバトロン)は発見されておらず、ガンマ線観測による PeVatron の確定が必要です。PeVatron の候補には銀河中心や超新星残骸が挙げられています。
PeVatron を発見するためには 1 PeV 付近まで伸びる宇宙線陽子に起因した特徴的なガンマ線スペクトルを特定方向から検出することが必要です。1 PeV の宇宙線陽子は星間物質と衝突しておよそ 100 TeV のガンマ線を放射するため、このエネルギー帯域まで観測可能な望遠鏡を建設する必要があります。しかし 100 TeV 超のガンマ線は地球に飛来する頻度が極端に低いため、PeVatron をガンマ線観測で発見するには多数のガンマ線望遠鏡を広範囲に設置する必要があります。
これまでのフェルミ衛星による観測で明らかになった 1 TeV(1012 電子ボルト)程度までの超新星残骸における宇宙線加速の証拠を 1 PeV 帯域まで拡大するため、次世代の大気チェレンコフ望遠鏡である チェレンコフ望遠鏡アレイ天文台(Cherenkov Telescope Array Observatory、CTAO)という計画を CR 研では進めています。図 1 に示すように CTAO では異なる大きさの望遠鏡を 100 台規模で設置します。これにより、CTAOでは観測可能エネルギーの下限と上限をこれまでの大気チェレンコフ望遠鏡より 1 桁ずつ広げ、ガンマ線天体の検出感度もこれまでの 10 倍改善することを目指しています。
CTAO で使用する望遠鏡は主鏡直径の大きいものから大口径望遠鏡(直径 23 m)、中口径望遠鏡(12 m)、小口径望遠鏡(4 m)と呼ばれ、このうち我々のグループで特に力を入れているのが、最終的に合計 70 台を設置する予定の小口径望遠鏡です。この小口径望遠鏡を数平方キロメートルの範囲に並べることで、数百 TeV のエネルギーのガンマ線を広大な検出面積で観測することが可能になります。また多数の望遠鏡でガンマ線の起こす空気シャワー現象を同時に観測することで、従来のガンマ線望遠鏡より角度分解能を数倍向上することも可能です。
大口径望遠鏡や中口径望遠鏡の観測とも組み合わせることで、これまでは銀河中心より近傍の超新星残骸までしか観測できなかったところを、CTAO では銀河系内のすべての超新星残骸を観測できるようになります。また広いエネルギー帯域と高い角度分解能を活かして、超新星残骸や銀河中心、また近年他の検出器で見つかりつつある PeVatron 候補天体を観測すれば、宇宙線加速の研究を大きく進めることができます。
暗黒物質と原始ブラックホールの探索
CTAO で狙う物理は PeVatron 探索、すなわち銀河宇宙線加速天体の研究だけではありません。パルサー風星雲、ガンマ線バースト、活動銀河核、星形成領域など、CTAO は天文台として機能するため様々な天体を観測対象とします。このうち CR 研で興味を持つ観測対象は暗黒物質と原始ブラックホールです。
銀河の中心に密集すると考えられる暗黒物質は、もしその正体が未発見の素粒子であれば、その対消滅によりガンマ線を放射し、天の川銀河の中心領域や矮小楕円体銀河をガンマ線観測することで暗黒物質の証拠が見つかるかもしれません。このような観測はフェルミ衛星や現行の地上ガンマ線望遠鏡で行われてきましたが、暗黒物質の発見には至っていません。そこで CTAO の持つ広大な検出面積、広い観測エネルギー帯域、そして高い角度分解能を活かすことにより、暗黒物質の発見を目指しています。
また宇宙初期の密度揺らぎにより発生した可能性のある原始ブラックホールのガンマ線による発見も目指しています。もし宇宙年齢程度の寿命を持つ、CTAO での観測に適した質量の原始ブラックホールが存在すれば、ホーキング輻射によってこれら原始ブラックホールは蒸発して消えゆこうとしている最中であり、消える最後の瞬間に大量のガンマ線を放射しているかもしれません。暗黒物質と同様に原始ブラックホールの探索も従来の望遠鏡で行われてきましたが、未だ発見には至っておらず、CTAO での観測や MeV ガンマ線望遠鏡での発見が期待されています。
CTAO の装置開発
CR 研では CTAO の 2020 年代の完成を目指し、これまで小口径望遠鏡と大口径望遠鏡の装置開発に力を入れてきました。小口径望遠鏡の開発ではこれまで 2 台の焦点面カメラの試作機開発と試験観測を成功させ、また大口径望遠鏡は 1 号機が 2008 年に完成し既に定常観測に移行し科学成果も出し続けています。
小口径望遠鏡の開発では、最も期待されている新技術のひとつである半導体光検出器の開発に取り組んでいます。従来のチェレンコフ望遠鏡では、ガンマ線と大気との相互作用で発生する微弱なチェレンコフ光(1 平方メートルあたり数十個の光子)を効率よく検出するために、光電子増倍管が用いられてきました。最近開発されたガイガーモードのアバランシェフォトダイオードを用いた半導体光検出器(Silicon Photomultiplier、SiPM)は、光電子増倍管と同程度の光電子増倍率を持ちながら、1.5 倍程度の光検出効率を実現します。そのほかにも、画素あたりの費用を低減でき耐久性も高いため、光検出器として大きな期待が寄せられています。一方で、光電子増倍過程で隣のセルに漏れ込みが生じるなどの欠点もあるため、性能改善のための開発を精力的に進めています。
さらに、小型化するカメラ画素の信号波形を高速(1 GHz 程度)で記録することで瞬間的なチェレンコフ光を夜空の明るさから分離する必要があるため、そのための専用集積回路の開発にも取り組んでいます。2015 年の 11 月には、我々のグループが開発に貢献した集積回路を搭載した小口径望遠鏡の試作機が完成し、CTAO の試作機としては初めて宇宙線によるチェレンコフ光の観測に成功しました(図 2 参照)。また 2018 年には試作 2 号機も完成させ、光電子増倍管から半導体光検出器の置き換えに成功し、試験観測も実現しました。2024 年現在、数十台の小口径望遠鏡の量産と建設に向け、最終設計と装置試験を進めている段階です。2020 年代中にこの小口径望遠鏡による観測が開始されるはずです。
フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡(フェルミ衛星)によって解き明かした宇宙線の起源
フェルミ衛星による超新星残骸の研究
フェルミ衛星(図1参照)は、2008 年の打ち上げ以来これまでに 1800 以上のガンマ線源を検出し、ガンマ線宇宙物理学に大きな進展をもたらしました。宇宙線起源の研究においても、フェルミ衛星の観測によって決定的な証拠を掴むことができました。超新星残骸は、銀河系内の宇宙線起源の最も有力な候補と考えられていました。そこでフェルミ衛星は、W44、W51C や IC443 と呼ばれる比較的古い(爆発から数万年以上の)超新星残骸からのガンマ線を観測しました。これらの超新星残骸では、その衝撃波が周辺の星間ガスと相互作用をしている兆候が見られたため、宇宙線陽子に由来するガンマ線を観測できることが期待されていましたが、図2に示すように我々が開発した画像解析手法により W44 や IC 443 ではガンマ線が超新星残骸の衝撃波領域から放射されていることを明らかにしました。
さらに、W44 と IC 443 において 200 MeV(2 × 108 電子ボルト)以下の領域のエネルギースペクトルを精密に測定したところ、図 3 に示すような宇宙線陽子起源のガンマ線に特徴的なスペクトルを捉えることに成功しました。宇宙線陽子が星間ガスと相互作用すると中性パイ中間子を生成し、それが崩壊することでガンマ線が発生します。この時、中性パイ中間子生成に関わる運動学の制約から、中性パイ中間子の生成頻度は、パイ中間子エネルギー増加に伴い急激に増加します。電子の相互作用に由来するガンマ線スペクトルはもっと緩やかになるため、観測されたスペクトルを説明することはできません。この測定の結果、超新星残骸で宇宙線陽子が加速されていることが決定的となりました。
カラーマップはガンマ線の強度を、左図の黒色の等高線は衝撃波中で加速された電子のシンクロトロン放射による電波強度を、白色の等高線は星間ガスの密度分布を、右図の薄青色の等高線は衝撃波によって暖められた星間ガスの密度分布を示しています。この観測により超新星爆発による衝撃波と星間ガスが衝突している場所でガンマ線が放射されていることが明らかになりました。我々のグループでは、他の超新星残骸の画像解析にも取り組んでいます。
フェルミ衛星が観測したスペクトルは、陽子起源の場合に期待されるスペクトルとよく一致しているのに対し、電子の制動放射から予想されるスペクトルとは一致していません。
フェルミ衛星による様々なガンマ線天体の研究
フェルミ衛星は、超新星残骸の他にも 1000 以上の活動銀河核を検出し、その種類毎の空間分布や時間発展に新たな実験的知見をもたらし、銀河形成の過程の理解を大きく進めています。また、パルサーについてもこれまで 120 個以上を検出し、その内半分近くをフェルミ衛星が初めて検出するなど、パルサーの研究に大きな進展をもたらしました。とくに、フェルミ衛星の観測によって、これまで考えられていたより多くのミリ秒パルサーと呼ばれる連星パルサーが検出され話題となっています。
さらに、フェルミ衛星は暗黒物質探索においても重要な貢献をしています。宇宙線気球実験 ATIC の測定によると宇宙線電子のスペクトルに暗黒物質起源とも考えられる増加が見られたため話題となっていました。しかし、フェルミ衛星による精密なスペクトル測定によって否定されました。一方で、暗黒物質の検出法としては、その対消滅によって生成されるガンマ線信号を探索することも有力な方法です。フェルミ衛星は 5 年間のガンマ線観測データを用い、最高感度で暗黒物質を探索しましたが、その証拠は見つけられませんでした。その結果、質量 100 GeV(1011 電子ボルト、陽子の約 100 倍の質量)以下の暗黒物質が存在しないことを示し、暗黒物質の質量範囲に強い制限を与えました。今後さらに観測を続けることで、暗黒物質の質量が 800 GeV 以下であれば検出できる見込みです。我々のグループでは、近傍で最も高密度に暗黒物質がたまっていると考えられる銀河中心周辺のガンマ線放射の詳細分布を研究しており、暗黒物質の対消滅によって放射されるガンマ線の信号検出に取り組んでいます。
X 線衛星:ひとみ(ASTRO-H)
ひとみ衛星(図 6 参照)は、2016 年 2 月 7 日に打ち上げられた JAXA の X 線衛星です。ひとみ衛星は、非常に高いエネルギー分解能(7 電子ボルト以下)で X 線分光(エネルギースペクトルを測定すること)ができること、硬 X 線領域まで(0.3~80 keV)の撮像分光観測(画像を撮ることとエネルギースペクトルの測定を同時にすること)ができること、そして広いエネルギー帯域(0.3~600 keV)で X 線・ガンマ線分光ができることを特徴としています。高分解能・広帯域観測を実現するために、ひとみ衛星は 4 種類の観測装置を搭載しています。その中で、40 keV から 600 keV の軟ガンマ線領域でこれまでより 10 倍の感度を実現するのが、我々のグループが開発を主導する軟ガンマ線検出器(Soft Gamma-ray Detector、SGD)です。SGD は、ガンマ線の到来方向とエネルギーを高分解能で測定できる半導体コンプトン・カメラとガンマ線の到来方向を制限するコリメータを組み合わせることで、観測方向以外からのバックグラウンドとなるガンマ線を排除し、これまでにない感度を実現しています。我々のグループは、シリコン半導体検出器や専用集積回路の開発に貢献しました。
ひとみ衛星は、打ち上げ間もなく発生した姿勢制御系の不具合によって運用を断念することになりました。我々のグループでは、それ以前に SGD で観測できた「かに」星雲のデータを解析し、5 千秒という非常に短い観測時間で 10% の精度でガンマ線の偏極を測定できることを示しました。我々のグループが推進した PoGO+ による 9 万秒の観測による 5% の精度が最高精度でしたが、SGD は観測時間あたりの偏極感度では PoGO+ を凌駕しています。
このようにして、宇宙からの微弱なガンマ線を観測するために開発した半導体コンプトン・カメラは、セシウムなど放射性物質固有のガンマ線を識別でき、広視野で広く分布した放射性物質を可視化できる能力も持っています。科学技術振興機構の補助金を得て、野外で使用可能な携帯型カメラを製品化し、この技術を福島における放射性物質の除染へ活用することで、復興の一助になるように取り組んでいます。(プレスリリース参照)
MeV ガンマ線観測衛星 AMEGO の開発
フェルミ衛星は、超新星残骸、パルサーおよびパルサー風星雲、ガンマ線バースト、活動銀河核などの天体における粒子加速による GeV エネルギー帯のガンマ線放射に多くの知見をもたらしました。しかし、MeV(106 電子ボルト)エネルギー帯で角度分解能が不十分でした。最近、高エネルギーニュートリノが検出されたセイファート銀河や、重力波の起源となる中性子星合体にともなうガンマ線バーストでは、MeV ガンマ線が支配的であると期待されているため、MeV エネルギー帯での 10〜50 倍の感度向上を目指して開発を進めているのが All-sky Medium Energy Gamma-ray Ovservatory(AMEGO)です。AMEGO は、10 MeV 以下のエネルギー帯では、コンプトン散乱の原理を活用してガンマ線を検出するため、ガンマ線偏極にも高い感度が期待できます。
AMEGO は、フェルミ衛星を似た検出器の構成となっていますが、飛跡検出器をストリップ型からピクセル型に変更することで、エネルギー分解能や低エネルギー帯での感度向上を目指しています。ピクセル型検出器では、チャンネル数が莫大となるため消費電力が大きな問題となりますが、我々のグループでは、新型の低消費電力 CMOS ピクセル型検出器の開発に取り組んでいます。
銀河系外の宇宙線の起源にせまる
ここまでは、銀河系内の宇宙線源について記述してきましたが、銀河系内の星間磁場の強さを考慮すると、1017 eV 以上のエネルギーを持った宇宙線は、銀河系内にとどまることができません。そのため、1017 eV 以上のエネルギー領域の宇宙線の大部分は、銀河系外から到来すると考えられています。銀河系外の宇宙線起源に関しては、ガンマ線バーストとよばれる現象を引き起こす「極超新星」爆発や太陽の 100 万倍から 10 億倍の質量を持つ超巨大ブラックホール、銀河団の衝突とそれに続く合体による乱流などの説がありますが、どれも有力とは言えない状況です。CTAO による高エネルギーガンマ線観測によって銀河系外の宇宙線源が明らかになることが期待されています。たとえば、これまでのフェルミ衛星の観測によって、ガンマ線バーストでは高エネルギーのガンマ線が 10 秒以上遅れて放射されていることがわかりました。この現象は陽子起源を示唆すると考えられていますが、フェルミ衛星の感度が不十分であるため、観測できるガンマ線の数量が少なく、放射機構を理解するまでには至っていません。このような突発的現象に関しては、CTAO はフェルミ衛星の 10 万倍の感度(数十 GeV のエネルギー領域)を持つため、多数のガンマ線を検出することでガンマ線バーストにおけるガンマ線放射機構を明らかにできると期待されています。ただし、CTAO の視野は、フェルミ衛星と比較して格段に狭いため、その観測頻度は年に 1 度程度と推測されています。また、赤方偏移が 0.1 以上の遠方に存在する超巨大ブラックホールから到来するガンマ線は、背景赤外光と相互作用して減衰すると考えられていますが、それと矛盾する観測結果が最近報告されています。これらの超巨大ブラックホールで加速された超高エネルギーの宇宙線陽子と背景マイクロ波の相互作用によるカスケードで説明できるとする説もありますので、CTAO でさらに高エネルギーのガンマ線を観測することで決着をつけることができると考えられています。