34. 海に砂漠がある?

砂漠というと、水がなくて生物のほとんどいない、荒れ地を思い浮かべると思います。実は海の90%におよぶとても広い場所は、研究者の中では海の砂漠と呼ばれていました。それは外洋と呼ばれる、岸から遠く離れた場所で、北太平洋、南太平洋、北大西洋、南大西洋、インド洋といった、大洋と呼ばれる海のそれぞれの真ん中のあたりです。もちろん陸の砂漠とは違って、海の砂漠は水で満たされています。しかし、ここは魚をはじめとする生物が少ないのです。これは魚が食べる餌のもととなる植物プランクトンが少ないからだと考えられています。

ではなぜ植物プランクトンが少ないのでしょうか?大洋の真ん中では、表面近くに温かい水があり、植物プランクトンが増えるために必要な栄養分が少ないのです。栄養分とは陸上の畑でまくような、窒素やリンのことです。これらの物質は炭素といっしょに生物ポンプ(#33参照)によって、表面から中深層に運ばれるために、表面付近では少なくなっています。表面に栄養分が乏しい海では、植物プランクトンが少なく、魚も少ない、だから砂漠といわれてきたのです。

しかし、1970年くらいから、少し考え方がかわりました。このような栄養分の少ない海にも、しっかりと生きている植物プランクトンがたくさんいたのです。藍藻類らんそうるいの仲間のとても小さな植物プランクトンで、普通の顕微鏡を使っても見ることができなかったので、気が付かなかったのです。この植物プランクトンの数は膨大で、1ミリリットルの水の中に10万匹かそれ以上いるといわれています。でも1匹1匹が小さいので、全部まとめても量としてはまだまだ少ないといえます。