44. 栄養分は多いほどよいの?

海洋の大部分は海の砂漠と呼ばれている生物の少ない海域で、魚が捕れるのは栄養分の豊富な海に限られています(#343536参照)。では、栄養分はたくさんあればあるほどよいのでしょうか。植物プランクトンに必要な主な栄養分は、畑の肥料にも含まれる窒素やリンです。人間生活が活発になると、生活排水や畑の過剰な肥料が川に流れ込んだりして、余分な栄養分が海に流れ込みます。このような栄養分は適度な量であれば、植物プランクトンと、それを餌にする動物プランクトンや魚なども増えて、漁獲も増えることにつながるはずです。東京湾は江戸前の寿司を生むように生産性の高い海だったのでしょう。しかし、栄養分が増えすぎると、植物プランクトンが増えすぎて赤潮を起こすため、死んだ植物プランクトンが海底にたまります。プランクトンの死骸は、そこで分解されて酸素を消費し、さらに毒性のある硫化水素を発生して魚介類を殺します。このような富栄養化と呼ばれる現象は、世界中の人間活動の活発な沿岸域で問題になっています。

日本は、このような問題を減らすために、沿岸域への栄養分の供給を減らす政策を世界に先駆けて取ってきています。そのおかげで、日本の内湾では赤潮は減ったといわれています。しかし、まだ毎年のように貧酸素化する海域もあります。一方で、むしろ最近は、栄養分を減らしすぎて、さらに魚が減っているのではないかといわれています。失われた豊かな生態系は、栄養分を減らすだけではすぐには戻ってこないのかもしれません。例えば、窒素、リン、ケイ酸など栄養分の比の変化も、生態系の変化を引き起こしていることも指摘されています。また多くの沿岸域では埋め立てが進み、魚の生息場所として重要性の見直されている干潟や藻場もなくなってしまっています。人間にとってどんな海が良いのか、そのために人間はどうしたらよいのか、研究することが必要です。