49. 貿易風とは?

大航海時代の船乗りたちは、熱帯では絶えず東風が吹くことを知っており、それを貿易風と呼んでいました。その背後にある壮大な大気の動きを見抜いたのは、18世紀英国の気象学者ジョージ・ハドレーでした。ハドレーは赤道から極までの一続きの南北方向の大気の流れを考えましたが、現在では赤道付近で暖められ上昇した大気は、上空を南北に移動し、やがて亜熱帯で再び降下して、その後、地表付近を流れて赤道方面に戻ってくるという流れがあることが分かっています。このような低緯度に起こっている大気の一続きの南北方向の流れ、すなわち南北循環をハドレー循環と呼んでいます。このような循環がどのように貿易風を形成するのかは、意外に思われるかも知れませんが、フィギュアスケート選手のスピンを考えると分かります。スケート選手は腕を大きく伸ばしているとき、ゆっくりと回転しています。それが腕を身体に引きつけるとはやく回転します。逆にスケート選手が腕を伸ばすと、またゆっくりとした回転となります。これを物理の言葉では角運動量保存といいます。地球大気の東西方向の流れは、大気が地軸を中心として回転していますので、これにも角運動量保存の法則は成り立ちます。地球は球体なので、地軸から地表までの距離は、亜熱帯より低緯度の熱帯のほうが大きいですね。このためハドレー循環の亜熱帯から熱帯への流れは、ちょうどスケート選手が腕を伸ばすことに相当します。亜熱帯で地球表面とともに東向きに回転している大気は、熱帯に流れていくと地軸に対する回転速度が小さくなります。つまり熱帯に移動した空気は地表に対して相対的に遅くなります。そうすると地表に立っている人から見ると空気は西向きに吹く流れ、つまり東風になります。太陽の加熱によってハドレー循環は常に起こっていますので、亜熱帯から熱帯域では常に東風、すなわち貿易風が吹き続けることになるのです。逆にそれと同じ理由でハドレー循環の上空の北向きの流れによって、中緯度には偏西風が吹くのです。このハドレー循環と呼ばれる大規模な大気の流れを仲立ちとして、赤道付近の東風(貿易風)と中緯度帯を吹き荒ぶ西風(偏西風)は同じコインの裏表をなしているということができます。